上演のための手引き

第三回「いつだって窓際であたしたち」の話

今回は「いつだって窓際であたしたち」を実際に上演してみて僕が苦労したことを書いてみようとおもいます。

「いつだって窓際で~」は、タイトル通り教室の窓際が舞台です。なので、上演は舞台上の奥に窓枠を吊って行いました。

劇中では、その窓を通して校庭をみつめるシーンが度々でてきます。

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これらのシーンは、稽古では特に問題なかったのですが、劇場に入ってやってみたらなぜかなかなかうまくいきませんでした。俳優の視線が窓の外に通じてるように感じられないのです。最初は俳優の演技に問題があるのかとおもって視線の動きを細かく修正してみましたが、原因はどうやらそれだけではありませんでした。

会場となったSTスポットの壁の色は白です。

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しかし、僕たちが使用していた稽古場の壁の色は黒でした。

僕は「いつだって窓際~」を上演してみるまで、ブラックボックスやホワイトボックスという空間について真面目に考えたことがありませんでした。いや、考えていたつもりではあったんですが、壁の色が俳優へ与える具体的な負荷について考えたのはこれが初めてでした。

黒い壁っていうのは、空間が拡散していくイメージがあります。壁は隔てるものではなく、むしろ溶かしてその向こう側を想像させます。

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(ロロ「ハンサムな大悟」より)

対して、白い壁はしっかり「ここまで」と空間を規定します。

俳優が黒い壁に触る場面と白い壁に触る場面を想像するとわかりやすいかもしれません。どちらも実際に壁に触っていたとしても、「壁に触るイメージ」が立ち上がりやすいのは断然白ではないでしょうか?

僕が劇場に入ってから感じた俳優のまなざしに対する違和感の正体は、「ここまで」の白い壁だったのです。

しかし、原因がわかったからめでたしめでたしではありません。僕はこの舞台で「ここまで」を越える俳優のまなざしがみたいのです

それで試みたのが、複数の視線を重ね合わせるという方法です。

一人の俳優が白い壁をみつめています。これだけではなかなか壁の向こう側は立ち上がりません(黒い壁のときはこれだけでもなんとなく向こうが見えてくるのです)。そこで、もう一人別の俳優にも、同じ場所を見つめてもらい、さらにみている景色のイメージも具体的に共有してもらいました。すると、格段に向こう側が立ち上がってきます。さらにもう一人の俳優も追加するとまた一段と遠くのイメージが広がりました。こんな風に、複数の俳優が同じ「あそこ」をみつめることで、白い壁の「ここまで」を突き破ることができてきました。

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そしてここで俳優が作ってくれた視線の重なり合いは、作品の強度をぐっと高めてくれました。誰かの視線に別の誰かの視線が寄り添う。それは、この作品にとってとてもとても大事な要素だからです。

さて、稽古で僕は、いつも悩みっぱなしなので、まだまだ苦労話はたくさんあります。次回はセリフのことを書きます。