KAISETSU

三浦直之 自作解説⑦

「本がまくらじゃ冬眠できない」自作解説

読書してる時間が人生で一番好きだ。読書してる人をみるのも好き。
以前、電車の中でミステリ小説を読んでいる男子中学生をみかけた。本と顔面の距離がやたらと近くて表情から「おもしれえええええええ!」が溢れ出していた。彼の周りにだけ膜がはってるような、この空間とは別の場所にいるみたいだった。
彼が夢中になってる小説は、かつて僕も読んだことがあって、残りページ数から考えるとここからさらにギアが上がっていくはずだった。現時点であんなに本と顔の距離が近いのだから、一体この先どうなってしまうんだろう。駅に到着しても彼は本から目を離さず、そのまま電車を降りていった。なんかもうほんとに胸がいっぱいになる光景だった。
彼のことを考えながら、「本がまくらじゃ冬眠できない」を書き始めた。

現代口語のなかに少女小説の登場人物みたいに話す高校生が加わるっていう構想をおもいついたとき、その高校生は絶対に端田新菜さんに演じてもらいたいとおもった。まあるくてやわらかいビーチの言葉遣いは新菜さんにとても似合った。朝役の桃子の明るさも冬の図書室というロケーションにぴったりで、話し声から白い吐息がみえるみたいだった。ビーチと朝と水星がストーブの前で話すコソコソ話に季節を感じる。いい俳優って、身体や声で季節をつくれる。
稽古中に流れる時間もいつも以上におだやかだった気がする。

エロい作品にしたかった。性愛とはまたべつの形のエロ。文字を追う目線、表紙をなでたりページをめくったりする指先、帯を巻きつけられる首筋、それら仕草のひとつひとつに色気をつくりたかった。僕にとって読書は官能的な行為なのだとおもう。なんというかそもそも線と線が絡まりあう文字ってエロい。その文字のつらなりが文章という線になって、それが俳優の身体を通して声になって。文字から声までのプロセスをゆっくり演劇にしたかった。