KAISETSU

三浦直之 自作解説④

「いちごオレ飲みながらアイツのうわさ話した」自作解説

短歌を読み漁っていた時期に書いた。
たまに長い文章が書けなくなることがあってそういうときは短歌を読んだり作ったりすることにしている。言葉の配置や助詞を細かく吟味しているとだんだんと頭がほぐれて、次第に長い文章がかけるようになっていく。この時期は山田航『さよならバグ・チルドレン」、笹公人『念力家族』を繰り返し読んだ。『さよならバグ・チルドレン』にはみたことのない懐かしい青春の風景があって、『念力家族』は小さくて微笑ましいスペクタルの連続で群像劇を読んでいるような広がりを感じた。

いつ高シリーズは、それまで関わりのなかった人々がある出来事を通して関係を深めていく、という展開が多いのだけど、この作品は例外で、仲良し三人組が仲良しのまま終わっていく。「すれ違う〜」で、話の構成を決めすぎたので、ただただおしゃべりするだけの60分を作りたかった。はなちゃん、たがちゃん、みきえちゃんの三人組のチーム感がとても好きで、ベンチで並んで座ると漫画の一コマみたいにみえる。この3人組のスパイものとか泥棒ものとかもみてみたい。


「いちごオレ〜」の直前に、いわき総合高校の生徒たちと作品をつくったのも大きかった。稽古の合間の休憩時間、やたらと笑うみんなの声がとても印象的で、だから「いちごオレ〜」でもたくさん笑い声を作ろうとおもった。どんなことでも笑いが止まらなくなるひとときってある。ペットボトルのキャップで腹を抱え込んだり、突如爆誕したオリジナルの語尾がどうしようもなくおかしくなったり。そういう時間をつくりたかった。


これを執筆する前まで「好き」と言わずに「好き」を描く強化期間中だったけど、この作品では、もはやなにも言わずに「好き」を描いてみようとおもった。沈黙のなかで「好き」を語る。劇中の瑠璃色がただただじっとみつめるだけのシーンがそれ。はなちゃんのちょっとしと表情の変化や所作のなかに感情がある。
絶え間ない話し声と笑い声のあとにやってくる静寂を、センチメンタルってよびたくない。